阿部峻介
製薬大手ノバルティスファーマの高血圧治療薬の臨床データを改ざんして研究者に論文を書かせ広告にしたとして、薬事法違反(虚偽・誇大な記事の広告の禁止)の罪に問われた同社元幹部・白橋伸雄被告(70)の上告審で、最高裁第一小法廷(山口厚裁判長)は検察側の上告を退けた。同社とともに無罪とした一審・東京地裁判決が確定する。28日付の決定で、裁判官5人の全員一致の判断。
第一小法廷は決定で、同法が禁じる広告を「医薬品の購入・処方を促す手段として不特定多数の者に知らせる行為」と定義し、読者がどう感じるかを客観的に判断することが重要だと指摘。研究発表の論文は、専門家が批判・検証するため、うそがあっても虚偽広告にあたらないとした。
補足意見で「処罰は萎縮効果もたらす」
裁判長を務めた学者出身の山口裁判官は補足意見を書き、論文発表は「学術活動の中核」と指摘。処罰対象にすれば「萎縮効果をもたらし、憲法が保障する学問の自由との関係で問題を生じさせる」と言及した。
白橋被告は京都府立医大の臨床研究に加わり、高血圧を防ぐ薬「ディオバン」の効能が高くなるよう改ざんしたデータを担当教授らに渡し、2011~12年に論文2本を海外の学術誌に掲載させた。一、二審とも、論文掲載は虚偽広告の「準備行為」にとどまると判断し、無罪とした。
事件受け立法、第三者のチェック義務づけ
同大の論文不正は外部の指摘で13年に発覚し、担当教授が辞職した。その後、白橋被告が関わったほかの4大学でも同様の不正が見つかり、厚生労働省が東京地検に告発。特捜部が時効や不正の度合いをふまえ、京都府立医大についてのみ事件化した。
この事件を受け、製薬会社から資金提供を受けた薬の臨床研究に第三者のチェックを義務づけるなどした臨床研究法が18年に施行されている。(阿部峻介)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル